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おたくの書斎です 綺麗な話も汚い話も

彩郎(@irodraw)という1冊のノート,本棚の1区切り,1つの人格《公開ファンレター・プロローグ》

ある日,関心領域にまとまりを感じたことでしょう。

このまとまりは概念として整理するにはあまりにもあいまいです。教科や分野として区別するにはあまりに横断的です。知識として溜めるにはあまりに基礎的です。

とにかくこの頭のなかのまとまりが気になって,ひとまず1冊のノートにとどめておくことに決めます。

お気づきでしょうね。

このノートは,魔法のノートです。

ほどよく手に馴染む大きさです。わずかに重みを感じますが,高級感を演出するていどに調整されています。持つとわずかに気分が昂揚します。紙質なめらかで,強気な価格設定を思わせます。

なんでもそのノートに書いてみます。すると,しばらく使ってから気づきます。このノートは,不思議とページが減らないらしいのです。「減らない」というのは不正確ですね。どんなノートだって,モノが減ったりなくなったりすることはありません。

そうではなくて,残りのページ数が減らないのです。めくってもめくっても,終わりのページが見えません。ためしに終わりのページからめくってみると,こんどはすでに書き付けたページにたどりつきません。ページが増えているらしいのです。

それでいて,ノートを閉じると,あのしっくりくる重さのままです。

キツネにつままれた気持ちになることでしょう。とはいえ人間は慣れの生き物です。すぐに気を良くして,いっそうなんでもノートに書くようになります。

ノートは繰り返し書き足され,赤ペンでチェックがつき,多くの付箋が貼られます。

ページはいくらでもあるというのに,まるで節約したがっているかのようです。しかし見方を変えてみると,どうやらその赤ペンでのチェックや付箋を貼ることを楽しんでいるようでもあります。

ページにこれ以上文字が書けなくなると,ノートの両端に紙を継ぎ足します。机の端から端まで広がるほどに継ぎ足されると,観念したのか,ページを改めます。

改められたページには,これまでと同じことも書かれます。新しいことも書かれます。違うテーマが書かれることもあります。

「◯ページの続き」とページの左上に書かれていることもあれば,なにかの言葉にぐるぐるとマーカーが塗られ,その脇に「◯ページに続きあり」と書かれていることもあります。

あるとき,わたしはこの書きかけのノートを発見します。

なにやらセンスのいいノートだと気になって,例のほどよいサイズ感と重さに,にんまりとしたはずです。ちょっとした罪悪感と抑えられない好奇心でページをめくってみると,わたしははっきりと,自分の胸が高鳴るのを感じます。

どのページにもおびただしい試行錯誤の跡が残っており,ページをめくるたびに言葉が選び直され,規模が大きくなり,複雑化しながらまとまりを帯びていきます。巨大な建築物を,都度,設計しながら組み立てているかのようです。雑多なメモだったものが,見開きの両端に広がる長い文章として書かれることがあります。方眼に図表として整理されることがあります。

内容が洗練されるにつれ,わたしはこのノートがなにかひとつの領域について書かれたものだとわかってきます。同時に,わたしにはノートの書き手の影がうっすらとしたシルエットで見えてきます。

これはどうやら,雑多ではあるものの,なにか共通のものについて書かれたものらしい。

しかし,この領域は,概念として整理するにはあいまいすぎ,教科や分野として区別するには横断的すぎ,知識として溜めるには基礎的すぎるのです。

なんであるかはわかります。しかし,これに対応する言葉を持っていません。

これをなんと表現すればいいのか。

言葉というよりは,キャッチフレーズ,いや,もっと言えば「姿勢」や「態度」のようなものかもしれない。

どれほど時間が経ったのか,わたしは空調のよく利いた部屋で,ついには何も書かれていないところまでページをめくり終えたのでした。

そうだ,と気づきます。表紙にはなんと書かれていたのか。そこにはきっと,タイトルのようなものがあるに違いない。

もう一度ノートの表紙を見直します。

単純作業に心を込めて

彩郎さん,好きです。ファンレターを書かせてください

上のノートが,わたしから見えている彩郎さんです。

もう少し,彩郎さんについて語らせてください。

いくつかのテーマで,同じ話をさせてください。「考え」を言葉にするのではなくて,「思い」を言葉にさせてください。

きっとこのファンレターが書き終わるころには,なぜわたしがファンレターを書きたくなったのか,説明できていると思います。読んでいただかなくてもいいのです。ただ,語らせてください。

※ プロローグなのでポエム成分多めでした。次からはもっと普通なことを書きます。